史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

2014-01-01から1年間の記事一覧

「冷戦後ネイティブ」と「小林よしのりの現在」———『ナショナリズムの現在 <ネトウヨ>化する日本と東アジアの未来』を読んだ。

萱野稔人・小林よしのり・朴順梨・與那覇潤・宇野常寛『ナショナリズムの現在 <ネトウヨ>化する日本と東アジアの未来』(朝日新書)を読んだ。 この本は第一章の座談会に宇野が司会という形で上記のメンバーが出席し、第二章が萱野と宇野の対談、第三章が…

『歴史と地理』(山川出版社)第680号(日本史の研究247)で「山丹・山丹交易について」を読んだ。

『歴史と地理』(山川出版社)第680号(日本史の研究247)で「山丹・山丹交易について」を読んだ。 これは「賢問愚問 解説コーナー」というシリーズで、「山丹交易の担い手は、どこに住むどんな民族なのでしょうか。また交易の実態を具体的に教えて下さい」…

『嫌われる勇気』を読んでいる。「自己啓発の源流」アドラー心理学のわかりやすい解説。

アドラー心理学をわかりやすく解説した本、岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社、2013)読んでる。題名と違い、内容はそう古い感じのものではない。まだ読んでいる途中なので全体的な感想は書けないのだけ…

『新・戦争論』における池上彰さんと佐藤優さんの絶妙のマッチング(感想その一)

池上彰さん、佐藤優さんの『新・戦争論』(文春新書、2014)を読んでいる。久しぶりにブログを書きたくなったので書いてみることにした。 もうだいぶ前になるが、ネット上でウェブ日記⇒ブログという流れでずっと書いていた頃、政治的な動きに関してもいろい…

ネルケ無方さんの『日本人に「宗教」はいらない』(ベスト新書、2014)を読んだ。日本人の精神と実践の関係について、目から鱗だった。

ネルケ無方さんの『日本人に「宗教」はいらない』(ベスト新書、2014)を読んだ。 著者は、ドイツ・ベルリンの出身でドイツ人の禅僧。1968年生まれだから、ベルリンの壁の中で育ったということになる。祖父がプロテスタントの牧師という環境で育ち、母を7歳…

「アメリカのめっちゃスゴい女性たち」読了。

町山智浩『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』(マガジンハウス、2014)読了。 かなり長い期間かけて読んだので前の方は忘れているのだけど、日本では知られていないがアメリカではよく知られている55人の女性を取り上げて一人当たり3ページで論じている…

アレクサンドロスはいつから「大王」か?

『歴史と地理』(山川出版社)第644号(2011年5月号)の山中由里子「アレクサンドロスは『大王』か?」を読んだ。 明治以来、日本ではマケドニアの王にしてギリシャからオリエント世界を征服したアレクサンドロス3世を「アレクサンダー大王」と呼ぶことが定…

ビアトリクス・ポターの伝記映画『ミス・ポター』を観た。20世紀初頭のイギリス社会と人生をどう生きるか。

ビアトリクス・ポターの伝記映画『ミス・ポター』を観た。 この作品は2006年に公開された映画で、「ピーターラビット」シリーズの著者であり、湖水地方のナショナルトラスト運動の祖としても有名なビアトリクス・ポターを演じた主演のレニー・ゼルウィガーの…

みなもと太郎『風雲児たち 幕末編』は歴史をvividに知る手がかりになる漫画だ。

みなもと太郎『風雲児たち 幕末編』第153話が『コミック乱』5月号に掲載された。 1970年代から続く大河歴史ロマン・『風雲児たち』だが、リイド社の『コミック乱』に移って幕末編が始まってからもう153話。もう13年になる。 今回は、万延元年(1860)のヒュー…

地方の進学校の凋落と医師不足の深刻化には関係があるということ

いま、かつての地域の名門公立進学校が、周囲の私学などに押され、また通学範囲が広がったことによって寄り吸収力の高い県庁所在地の公立高校などに生徒を奪われて、地盤沈下している例が多い。 私の郷里である長野県では、東京の事例などの例を鑑みて、公立…

ベビーシッター殺人と主婦の在宅ビジネスは同じ根を持っている

ここ数日、ベビーシッター業を営んでいる男性の暴行によって幼児が死亡したとされる事件が、報道をにぎわしている。母親と容疑者を結び付けたのがマッチングサイトだということで、そのあたりに非難が集中している傾向があって、これは基本的にどうかと思う…

社会問題系のことについて、このブログでも少し書いてみようと思う。

社会問題系のことについて、ある頃から意識的に書かないようにしていたのだけど、(それがいつだったのか思い出せないが)何が正しいとか間違っているとかいうことではなくて、この問題とこの問題は同じ根を持っているとか、こういうことが関係してこういう…

野村進『コリアン世界の旅』を読んでいる。(1)1996年と2014年の間に日本人の対朝鮮・韓国観がいかに激変したか。

野村進『コリアン世界の旅』を読んでいる。1996年の本ということで、少し古さを感じるのは、2002年の拉致事件発覚、金正日がその事実を認めて以来、急速に日本人の対韓国・朝鮮観が厳しくなったのと、韓流ブームに代表されるように、「特殊な関係の国」では…

『物語ウクライナの歴史』を読んだ。(3):ウクライナは、思ったよりずっと壮大な歴史を持っていた。

『物語ウクライナの歴史』読了。書き始めた当初は、(3)としてコサック国家の時代、(4)として帝政ロシアとオーストリア帝国の支配下の時代、という具合に書いて行こうと思っていたのだが、そこまで詳しくやっている余裕がなくなってきたので(3)としてひ…

浦久俊彦『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』は19世紀音楽史だけでなく社会史を知るのにも大変読み応えのある一冊だった。

浦久俊彦『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』(新潮新書、2013)読了。題名から感じる雰囲気とは全く違い、19世紀中盤の音楽史・文化史を概観し、またリストという巨大な天才の生涯を概観することができる素晴らしい本だった。 リストはイメー…

野村進『千年、働いてきました』を読んだ。(3)独創的なアイディアとは、「チャップリンのステッキ」をみつけること

(その2)からの続きです。 野村進『千年、働いてきました』。後半も、どのエピソードも面白い。 ブリキ製造業がカンテラを作ることでガラスの技術を得、それが鏡の分野への進出の始まりで(ところで鏡台作りが静岡の地場産業であるということははじめて知…

野村進『千年、働いてきました』を読んだ。(2)老舗企業の最先端技術。古いばかりじゃないんだ。

(その1)からの続きです。 この本の面白さはいくつもあるが、製造業において、老舗企業の最先端技術、という観点が面白かった。同和鉱業(2006年からDOWAホールディングス)の「都市鉱山」とはすなわち廃棄された携帯の山。この1トンあたりの貴金属の含有…

野村進『千年、働いてきました』を読んだ。(1)日本には、職人と権力の相互信頼関係があった。

2006年に読んだ本だが、今でも印象に残っているので、少しこの本について書いてみる。(ウクライナについてのエントリも、順次更新予定) 野村進『千年、働いてきました 老舗企業大国ニッポン』(角川Oneテーマ21、2006)を 日本には創業100年を超える老舗企…

『物語ウクライナの歴史』を読んでいる。(2)リトアニア・ポーランド支配時代は、現代ウクライナにつながる宗教問題の種がまかれ、一方でコサック国家の成立を準備した時代だった。

ヴワディスワフ2世ヤギェウォ(リトアニア大公・ポーランド王) (その1)からの続きです。 キエフ・ルーシは1240年にジョチ・ウルス(キプチャク汗国)にキエフを征服されて滅んだ。その後継国家がハーリチ・ヴォルイニ公国として1349年まで存続した。この…

『物語ウクライナの歴史』を読んでいる。(1):ロシア・ウクライナが正統な後継の座を争う「キエフ・ルーシ」はどのように興りどのように衰退したのか。

この本には、現在のウクライナの土地で興亡を重ねた多くの民族や国家について書かれているけれども、現在につながる存在として大きく取り上げられているのは、キエフ・ルーシ、高校の世界史では『キエフ公国』として取り上げられる国家だ。 それ以前の、この…

ウクライナにおける対立 ー言語と宗教ー

【ウクライナにおける対立ー言語と宗教ー】 『物語ウクライナの歴史』を読み始めたのは、昨今のウクライナ情勢を見ていて、どうも本質的に何が問題になっているのか分からないために、何が何だかよく分からないという感じがあったので、歴史を知ることでこの…

『物語 ウクライナの歴史』を買った。

『物語 ウクライナの歴史』を買った。 昨今のウクライナ情勢について何か書きたいなと思いながら、どうも問題の本質がどこにあるのか今ひとつわからないので、歴史から勉強しなおしてみようと思って買ってみた。ロシア帝国やソ連、またその後継国家連合であ…

サハラ砂漠の遊牧民、トゥアレグを巡る問題

Photography by Dan Lundberg 昨年9月の『歴史と地理』に掲載されていた、私市正年「フランスにおけるサハラ地域の植民地化とトゥアレグ問題」を読んだ。 トゥアレグはサハラ砂漠西部に住む遊牧民族で、アルジェリア、マリ、ニジェール、リビアの領域に100万…

高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』は、2013年に読んだ本で一番おもしろい本だった。

高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』読了。面白かった。面白いという意味では、今シーズンナンバーワンかも。『多崎つくる』もよかったけど、これは面白いというのとは違うから、面白さという点では『ソマリランド』はここ数年読んだ本の中でも相当ハイレ…

水野和夫『人はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(1)世界史的転換を描こうとしていることと、デフレ下での経済成長という「近代の常識」の破れの指摘

水野和夫『人はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』を読んでいる。まだ読みかけだが、なかなか全体像が描きにくい。 この本は、一口で言えば、1995年以降、日本を含む世界は大きな転換期、近代の常識が、主に経済面でだが、経済面だけでなく、通用しない…

【「責任を持つ」ことの意味、「責任をとる」ことの意味】

仕事に関する本をいろいろ読んでいて、「責任を持つ」というのはどう言うことかについて考えていたのだけど、それはつまり、 1.「その仕事をする」のは「自分しかいない」ということを認識し、 2.いかにしたらその仕事をやり遂げられるかを考え、 3.そ…

「グローバル経済」と「新中間層の没落」

水野和夫『人はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』を読んでいる。 まだ読み始めたばかりなのだが、現在起こっているグローバリゼーションの本質は長期的な利益率の低下による資本の利潤回復運動であり、ということは実質賃金を下げようとする「資本の反…

京都造形芸術大学理事長・徳山詳直さんの日本復興構想の熱さ

昨日は京都造形芸術大学の専務理事の徳山豊さんについて書いたのだが、この人も高校からアメリカのミリタリー・スクールに留学したりして凄い人だなと思ったのだけど、この人のお父さん?と思われる徳山詳直さんというこの大学の理事長のインタビュー記事が…

大学、ないし教育はどうあるべきか:人間の真の豊かさと「手のひら芸大」の試みー「逸脱への恐れ」を超えて

月刊MOKUの2014年1月号を読み返して、特集の『豊かさとは何か」の対談で、『知と藝術のジャングル 人間の真の豊かさを求める「教育再興論」』と題して徳山豊さんが話をされていた。徳山さんは京都造形芸術大学と東北芸術工科大学の専務理事をされているのだ…

ブラジルについて考えることは、国民国家イデオロギーの有効性について考えることでもある

Photography by Artyominc 『歴史と地理』(山川出版社)の『地理の研究』189号を読む。 『ブラジル』を特集していて、最初の論文・丸山浩明『ブラジルの人種・民族と社会』が、ブラジル社会の歴史的・人種的形成について詳細に述べていて、勉強になった。 …