史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

「現代ニッポン論壇事情」「良いテロリストのための教科書」「経済学という教養」など

栗原祐一郎さんのインタビューを読んでから興味を持ち出した左翼がリフレ政策に反対する理由、また左翼が貧困に陥ってるロスジェネをスルーする理由、全体には経済や社会についての実態が知の世界にきちんと共有されてないという現状を打開しないと、という問題について考え始め、インタビューの中で出てきた何冊かの本を買ったり借りたりして少し読み始めているので、それぞれの本について少しずつ書いてみようと。手元に来た順で。


 

 

岩田規久男「昭和恐慌の研究」(東洋経済新報社、2004)。この本は昭和恐慌の研究を通じ、デフレ局面では金融緩和策が有効という考えを共有したいわゆるリフレ派の経済学者の方々が執筆しているとのこと。中には私がオフ会で一度お会いしている方の名前も見受けられた。


 

 

北田暁大栗原裕一郎後藤和智「現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史」(イースト新書、2017)。この本は栗原裕一郎さんのインタビューの元になったのかなという印象のある本で、大変目配りの広い批評家である栗原さんとロスジェネ世代、若者論問題の論客である後藤さんを社会学者で左翼と言っていい立場の北田さんが呼びかけて実現した鼎談で、いろいろな問題について論じあっていてとても面白かった。読了。またこの本で名前の上がっている本や研究者を読んでいくという一つの方向性が見えた。

 

正直北田さんは今までいわゆる右側の論客にかなりきつい言葉をぶつけていた印象があり、よく思っていなかったのでこの本も出た時から書店で見かけてはいたのだが、買う気になっていなかった。栗原さんのことを知っていればその場で読んでいたと思うが、実際のところは北田さんの現状認識や考え方にはとても頷けることが多く、北田さんも考え方が変わられた部分もあるのだろうとは思うが、現状に目を瞑る人が多い左翼の中では真摯に現状の問題を理解しようとし、問題点を訴えようとしているのはとても好感が持てた。


 

 

外山恒一「良いテロリストのための教科書」(青林堂、2017)。外山さんは自称ファシストだそうで、インタビュアーの毎日新聞の人と栗原さんが「危ない人ですよね」「危ない人じゃありません(笑)」という会話をしていたのがおかしかったが、要するに右翼の人々に「敵=左翼を知れ」という趣旨で書いている本のようで、基本的にはその辺りのところを知っている人なら共通認識であるフランス革命に遡って左翼の起源について書いている。そんなに目新しいことがあったわけではないが、外山さんも呉智英さんの影響を受けていると書いていて、そりゃ私と認識がそんなに違わないはずだわな、と思った。

 

サイトやツイッターではかなりきつい言葉を使われているが、大変啓蒙的でわかりやすい記述が続いている。まだ共産党新左翼の違い、みたいな話のところ(48ページ)までしか読んでないが、いかめしい印象とは異なってすごく平易な読みやすい本だと思った。別に右翼の人でなくても、左翼の人も読めば左翼の歴史がよくわかるんじゃないかなという気がする。


 

 

稲葉振一郎「増補 経済学という教養」(ちくま文庫、2008)。単行本で出たのは2004年とのこと。栗原さんによると、左翼方面の人にも「主流派=新古典派経済学の重要性を知らしめた」本とのことで、実際かなり影響力があったんだなという印象。この本もまだ32ページまでしか読んでないのだが、経済学や生物学の達成についてわかりやすく書いていて、これは受ける人には受けるだろうなと思った。特にマルクス経済学の強みと弱点についてはとても分かり易かった。

 

ただ、経済学や生物学の「達成」についてはどこまで認めていいのかなあというのはまだちょっとわからない。しかし真摯に学問的手続き(=仮設及びその検証)をとって進められた学問であれば、その手続きの範囲内では実効性も持ちうるということはもちろん理解できる。しかし実際に理論を現実に当てはめるときには理論では捉えきれない部分が必ず出てくるはずで、であるのにそれを現実の政策として実行するということは我々その政策を実行される側にとってはある種の生体実験にかけられているようなものなわけで、その辺りが経済学や生物学など生身の相手をさせられる方はたまらんなあという感がある。

 

しかし逆に言えばAIでディープラーニングを導入すればもっときめ細かな学習によって良い解決案が出てくる可能性もあり、まあそうなるともう「理論」を超えて「なんだかよくわからないけどうまくいく」という感じになるかもしれないが、まあそれならそれでもいいと思う。

 

 

「天才・柳沢教授の生活」の主人公も「人間を知るために経済学を専攻した」という人物であって、そのことに非常に奇異な印象を最初は持ったのだけど、経済学の提唱する人間観みたいなものもこの本でより理解していけると良いと思った。