史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

「現代ニッポン論壇事情」「良いテロリストのための教科書」「経済学という教養」など

栗原祐一郎さんのインタビューを読んでから興味を持ち出した左翼がリフレ政策に反対する理由、また左翼が貧困に陥ってるロスジェネをスルーする理由、全体には経済や社会についての実態が知の世界にきちんと共有されてないという現状を打開しないと、という…

「歴史の終わり」は来なそうだ:トランプ氏の大統領就任

トランプ氏がアメリカ大統領に就任して、リベラル派を中心に強い反発を見せている人が多く見られる。また、そうでない人々も、彼の粗暴な言動の側面に注目して、一様に戸惑っているように思える。歓迎している人は少なく、また冷静に分析が出来ている人はさ…

何がどこに行くのか、わかっている人は誰もいない。

今年、2016年ももう残りわずかになって来た。個人的には、今年はとても大変な年で、来年になって運の流れが少しは変わり、いい方向に流れてくれると良いと思うのだが、世界的に見ても色々な大きな流れが変わる節目のような出来事がいろいろ起こったように思…

自由な気持ちで本棚を作り直してみる

本棚を整理していると、いろいろな本が出てきて、その本を買った時にどんなことを考えていたかをちらちら思い出したりして、嬉しくなることもあるしちょっと考えてしまったりもする。 その本の内容について前向きな期待を持って買った時、その期待に応えてく…

こうの史代原作・片渕須直監督作品「この世界の片隅に」を観た。

こうの史代原作・片渕須直監督作品「この世界の片隅に」を観た。この作品は自分の中でもとりわけ意味を持つ作品なので、感想と言うか思ったことを、ツイッターなどに書いたこともまとめながら書いておこうと思う。 私が原作を読んだのは2009年だった。ブログ…

現在の関心のありか。政治プロセスの面白さ。

おはようございます。 私事ですが、54歳になりました。新しい年齢になるにあたり、今感じていることを少し書いておきたいと思います。「お」はつきませんが、「気持ち」です。 何をやりたいのか自分ではっきりさせられない時期が続きました。何でも出来るよ…

西川賢「ビル・クリントン」を読んだ。面白くてためになり、アメリカの来た道が理解できたとともに日本の現状を理解する上でもとても示唆的だった。

西川賢「ビル・クリントン」(中公新書)を読んだ。 ビル・クリントン - 停滞するアメリカをいかに建て直したか (中公新書) [新書] 西川 賢 中央公論新社 2016-07-20 1992年の大統領選挙で当選し、1993年年初から2001年の年初まで大統領を務めたビル・クリン…

「冷戦後ネイティブ」と「小林よしのりの現在」———『ナショナリズムの現在 <ネトウヨ>化する日本と東アジアの未来』を読んだ。

萱野稔人・小林よしのり・朴順梨・與那覇潤・宇野常寛『ナショナリズムの現在 <ネトウヨ>化する日本と東アジアの未来』(朝日新書)を読んだ。 この本は第一章の座談会に宇野が司会という形で上記のメンバーが出席し、第二章が萱野と宇野の対談、第三章が…

『歴史と地理』(山川出版社)第680号(日本史の研究247)で「山丹・山丹交易について」を読んだ。

『歴史と地理』(山川出版社)第680号(日本史の研究247)で「山丹・山丹交易について」を読んだ。 これは「賢問愚問 解説コーナー」というシリーズで、「山丹交易の担い手は、どこに住むどんな民族なのでしょうか。また交易の実態を具体的に教えて下さい」…

『嫌われる勇気』を読んでいる。「自己啓発の源流」アドラー心理学のわかりやすい解説。

アドラー心理学をわかりやすく解説した本、岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社、2013)読んでる。題名と違い、内容はそう古い感じのものではない。まだ読んでいる途中なので全体的な感想は書けないのだけ…

『新・戦争論』における池上彰さんと佐藤優さんの絶妙のマッチング(感想その一)

池上彰さん、佐藤優さんの『新・戦争論』(文春新書、2014)を読んでいる。久しぶりにブログを書きたくなったので書いてみることにした。 もうだいぶ前になるが、ネット上でウェブ日記⇒ブログという流れでずっと書いていた頃、政治的な動きに関してもいろい…

ネルケ無方さんの『日本人に「宗教」はいらない』(ベスト新書、2014)を読んだ。日本人の精神と実践の関係について、目から鱗だった。

ネルケ無方さんの『日本人に「宗教」はいらない』(ベスト新書、2014)を読んだ。 著者は、ドイツ・ベルリンの出身でドイツ人の禅僧。1968年生まれだから、ベルリンの壁の中で育ったということになる。祖父がプロテスタントの牧師という環境で育ち、母を7歳…

「アメリカのめっちゃスゴい女性たち」読了。

町山智浩『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』(マガジンハウス、2014)読了。 かなり長い期間かけて読んだので前の方は忘れているのだけど、日本では知られていないがアメリカではよく知られている55人の女性を取り上げて一人当たり3ページで論じている…

アレクサンドロスはいつから「大王」か?

『歴史と地理』(山川出版社)第644号(2011年5月号)の山中由里子「アレクサンドロスは『大王』か?」を読んだ。 明治以来、日本ではマケドニアの王にしてギリシャからオリエント世界を征服したアレクサンドロス3世を「アレクサンダー大王」と呼ぶことが定…

ビアトリクス・ポターの伝記映画『ミス・ポター』を観た。20世紀初頭のイギリス社会と人生をどう生きるか。

ビアトリクス・ポターの伝記映画『ミス・ポター』を観た。 この作品は2006年に公開された映画で、「ピーターラビット」シリーズの著者であり、湖水地方のナショナルトラスト運動の祖としても有名なビアトリクス・ポターを演じた主演のレニー・ゼルウィガーの…

みなもと太郎『風雲児たち 幕末編』は歴史をvividに知る手がかりになる漫画だ。

みなもと太郎『風雲児たち 幕末編』第153話が『コミック乱』5月号に掲載された。 1970年代から続く大河歴史ロマン・『風雲児たち』だが、リイド社の『コミック乱』に移って幕末編が始まってからもう153話。もう13年になる。 今回は、万延元年(1860)のヒュー…

地方の進学校の凋落と医師不足の深刻化には関係があるということ

いま、かつての地域の名門公立進学校が、周囲の私学などに押され、また通学範囲が広がったことによって寄り吸収力の高い県庁所在地の公立高校などに生徒を奪われて、地盤沈下している例が多い。 私の郷里である長野県では、東京の事例などの例を鑑みて、公立…

ベビーシッター殺人と主婦の在宅ビジネスは同じ根を持っている

ここ数日、ベビーシッター業を営んでいる男性の暴行によって幼児が死亡したとされる事件が、報道をにぎわしている。母親と容疑者を結び付けたのがマッチングサイトだということで、そのあたりに非難が集中している傾向があって、これは基本的にどうかと思う…

社会問題系のことについて、このブログでも少し書いてみようと思う。

社会問題系のことについて、ある頃から意識的に書かないようにしていたのだけど、(それがいつだったのか思い出せないが)何が正しいとか間違っているとかいうことではなくて、この問題とこの問題は同じ根を持っているとか、こういうことが関係してこういう…

野村進『コリアン世界の旅』を読んでいる。(1)1996年と2014年の間に日本人の対朝鮮・韓国観がいかに激変したか。

野村進『コリアン世界の旅』を読んでいる。1996年の本ということで、少し古さを感じるのは、2002年の拉致事件発覚、金正日がその事実を認めて以来、急速に日本人の対韓国・朝鮮観が厳しくなったのと、韓流ブームに代表されるように、「特殊な関係の国」では…

『物語ウクライナの歴史』を読んだ。(3):ウクライナは、思ったよりずっと壮大な歴史を持っていた。

『物語ウクライナの歴史』読了。書き始めた当初は、(3)としてコサック国家の時代、(4)として帝政ロシアとオーストリア帝国の支配下の時代、という具合に書いて行こうと思っていたのだが、そこまで詳しくやっている余裕がなくなってきたので(3)としてひ…

浦久俊彦『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』は19世紀音楽史だけでなく社会史を知るのにも大変読み応えのある一冊だった。

浦久俊彦『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』(新潮新書、2013)読了。題名から感じる雰囲気とは全く違い、19世紀中盤の音楽史・文化史を概観し、またリストという巨大な天才の生涯を概観することができる素晴らしい本だった。 リストはイメー…

野村進『千年、働いてきました』を読んだ。(3)独創的なアイディアとは、「チャップリンのステッキ」をみつけること

(その2)からの続きです。 野村進『千年、働いてきました』。後半も、どのエピソードも面白い。 ブリキ製造業がカンテラを作ることでガラスの技術を得、それが鏡の分野への進出の始まりで(ところで鏡台作りが静岡の地場産業であるということははじめて知…

野村進『千年、働いてきました』を読んだ。(2)老舗企業の最先端技術。古いばかりじゃないんだ。

(その1)からの続きです。 この本の面白さはいくつもあるが、製造業において、老舗企業の最先端技術、という観点が面白かった。同和鉱業(2006年からDOWAホールディングス)の「都市鉱山」とはすなわち廃棄された携帯の山。この1トンあたりの貴金属の含有…

野村進『千年、働いてきました』を読んだ。(1)日本には、職人と権力の相互信頼関係があった。

2006年に読んだ本だが、今でも印象に残っているので、少しこの本について書いてみる。(ウクライナについてのエントリも、順次更新予定) 野村進『千年、働いてきました 老舗企業大国ニッポン』(角川Oneテーマ21、2006)を 日本には創業100年を超える老舗企…

『物語ウクライナの歴史』を読んでいる。(2)リトアニア・ポーランド支配時代は、現代ウクライナにつながる宗教問題の種がまかれ、一方でコサック国家の成立を準備した時代だった。

ヴワディスワフ2世ヤギェウォ(リトアニア大公・ポーランド王) (その1)からの続きです。 キエフ・ルーシは1240年にジョチ・ウルス(キプチャク汗国)にキエフを征服されて滅んだ。その後継国家がハーリチ・ヴォルイニ公国として1349年まで存続した。この…

『物語ウクライナの歴史』を読んでいる。(1):ロシア・ウクライナが正統な後継の座を争う「キエフ・ルーシ」はどのように興りどのように衰退したのか。

この本には、現在のウクライナの土地で興亡を重ねた多くの民族や国家について書かれているけれども、現在につながる存在として大きく取り上げられているのは、キエフ・ルーシ、高校の世界史では『キエフ公国』として取り上げられる国家だ。 それ以前の、この…

ウクライナにおける対立 ー言語と宗教ー

【ウクライナにおける対立ー言語と宗教ー】 『物語ウクライナの歴史』を読み始めたのは、昨今のウクライナ情勢を見ていて、どうも本質的に何が問題になっているのか分からないために、何が何だかよく分からないという感じがあったので、歴史を知ることでこの…

『物語 ウクライナの歴史』を買った。

『物語 ウクライナの歴史』を買った。 昨今のウクライナ情勢について何か書きたいなと思いながら、どうも問題の本質がどこにあるのか今ひとつわからないので、歴史から勉強しなおしてみようと思って買ってみた。ロシア帝国やソ連、またその後継国家連合であ…

サハラ砂漠の遊牧民、トゥアレグを巡る問題

Photography by Dan Lundberg 昨年9月の『歴史と地理』に掲載されていた、私市正年「フランスにおけるサハラ地域の植民地化とトゥアレグ問題」を読んだ。 トゥアレグはサハラ砂漠西部に住む遊牧民族で、アルジェリア、マリ、ニジェール、リビアの領域に100万…