読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

『歴史の呪縛』と「スコットランド独立」を問う住民投票の実施

歴史の呪縛、というようなものがある。

 

例えば、日韓関係、日中関係というものは、その典型的な例だろう。

 

三国とも、既に第二次世界大戦後に生まれた世代が大部分になっているのに、自分たちが生まれるより前の時代に起こったことに縛られ、いまだにそれぞれの国の関係がぎくしゃくしている。

 

中国などは、数十年にわたってアメリカと対立してきた歴史を忘れたかのように、日本を目の敵にし、アメリカとの第二次世界大戦での共闘という「古証文」を持ち出してきている。

 

実際にアメリカと連合して戦ったのは国民党政権であり、現代中国政府のルーツである紅軍は一地方政権に過ぎなかったわけだが。

 

中国はアジアの覇者、あわよくば世界の覇者たらんとし、目の上のたんこぶである日本を目の敵にしているようにしか見えない。

 

こうした関係は不毛なものではあるが、どの国家にとってもアイデンティティに関わることであるので、そう簡単にその呪縛を解くことはできないのだ。もしできるとしたら、アナーキストの理想のように、あるいはジョン・レノンの『イマジン』の歌詞のように『国家』というものがすべて消えてなったときだろう。国家の存在を前提とする限り、こうした歴史の呪縛は薄らぐと言えども消えることはないだろう。

 

ということを考えたのは、「スコットランド独立」の住民投票が今年の9月に行われると言うニュースを読んだからだ。

 

スコットランドが正式にイングランドと連合し、『大ブリテン王国』となったのはスチュアート朝のアン女王の1707年のことだった。それか300年以上経ってなお独立を図ろうとするのは、いまなお民族の誇りの部分でイングランドへの屈折した思いがあるからだろう。

 

スコットランドは、スコットランド出身の労働党トニー・ブレア政権の時代に、広範な自治権を獲得し、スコットランド自治政府とスコットランド議会が設けられ、限られた分野・範囲ではあるが独自の法律を制定し、独自の徴税も可能になっているようだ。

 

しかし自治政府の『独立草案』ではエリザベス女王を君主と認め、通貨ポンドを維持するということなので、要は経済的には今の状態を維持し、その上で独立国としてEUにも加盟する、ということを目指しているようだ。

 

つまり、経済的にはかなりナンセンスな選択だと言っていいのだろうと思う。イングランドの人口が5300万であるのに対し、スコットランドの人口は520万と10分の1以下だ。300年以上一つの国家としてやってきて、例えば軍事的にどういう防衛政策をとるのかなど、不明な点が多すぎる。イギリス軍にはかなりのスコットランド人がいるわけだし、彼らはどういうことになるのか。また、イギリスの旗・ユニオンジャックにも青のX型のスコットランド国旗が組み込まれているわけで、ここからブルーの部分をのぞくことになるのだろうか。

 

また、エリザベス2世女王の呼称も問題だ。処女王エリザベス1世の死後、イングランド王位はスチュアート朝スコットランドの国王・エリザベス女王のライバルと目されたメアリ・スチュアートの子・ジェームズ6世に受け継がれた。ジェームズ6世がイングランド王ジェームズ1世になったのだ。だから現エリザベス女王は、スコットランド王としてはエリザベス「1世」ということになるわけだ。

 

韓国が日本に統治された35年間を日帝時代と忌み嫌い、全くの暗黒時代と見なしているが、実際にはおおくん韓国人が日本軍にもいたし将校ももちろんいた。日本軍ではないが、満州軍にいたのが今の朴大統領の父親、朴正煕だ。彼は日本の陸軍士官学校にも留学したし、満州軍では中尉の地位にあった。

 

今ではそれらはすべて負の経歴となっているが、それは評価として正当ではないだろう。彼らは彼らなりに、日本の統治機構の中で韓国のために何ができるかは考えていたはずだ。そうしたことをすべて歴史の闇に葬り去ろうとすることは、あまり賢いやり方とは思えない。

 

スコットランドイングランドの関係はそれ以上に深く長く続いたわけだから、そこが分離するというのは外から見るとほとんど非現実的に見える。しかし、自治政府はかなり意気軒昂に思われるし、イギリス政府の方もかなり警戒感を示して、『独立した場合は通貨ポンドの流通は認めない』と表明した。これはスコットランド側の政策の骨子を否定することで、独立の住民投票が成立することを阻止する狙いがあるのだと言う。

 

こちらの記事を読んでも、一般に独立の可能性は低いと見なされているようだが、あり得ないことだとは見なさないところが、経験主義のイギリス人らしい感じがする。そして過去の歴史の中でも、まずあり得ないと見なされたことが起こっているのがイギリス史ではあるわけだ。(もちろんどの歴史も、だが)

 

こうした事例を見ると、最初に述べたように、「歴史の呪縛」というものは本当に深いものだなと思う。労働者の音楽であるロックのミュージシャンにスコットランドアイルランド系の名前(例えばMcのつくもの)が多いのは、やはり産業革命以降労働者階級にならざるを得なかった多くのスコットランド系(もちろんアイルランド系も)の人々がいたからだろう。それは日本で芸能界の人に朝鮮韓国系・沖縄系の人が多いことと重なる部分が多いように思う。

 

この件についてもう一つ別の見方ができるという可能性もある。それは、ヨーロッパにおける地域分権主義の高まりという面だ。ヨーロッパの国民国家は、イギリスが典型的な例であるように、少数民族地域を包摂しつつ成立した歴史的経緯をどこの国も持っている。スペインのバスクカタルーニャガリシア、フランスではコルシカやアルザス・ロレーヌブルターニュベルギーはフラマン系(オランダ系)とワロン系(フランス系)の連合国家だと言ってもいい。そしてそのそれぞれの地域が、EUという超国家的な枠組みが成立したのとほぼ同じ時期に地域自立の動きを強め始めた。それは、EU成立という出来事が、それまで強大だった国家主権というものの弱体化を意味するという面を持っていたことの一つの現れだろう。

 

そのように見なすと、「イギリスからのスコットランドの独立」という現象は、イギリスという国・地域の『ヨーロッパ連合』への一体化の一プロセスをなす現象だと見なしてもいい可能性もある。

 

これが結果的に国境が溶解する方向へ向かう動きなのか、あるいは国民国家が解体するだけで何の連合も生まれて来ない動きになっていくのかはまだこれからの問題なのだが、(通貨ユーロの問題一つをとってもこの先は前途多難ではある)私たちは思いもかけない歴史の一場面に立ち会っている可能性もあるのではないかと、言う気もするのだった。