史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

野村進『千年、働いてきました』を読んだ。(2)老舗企業の最先端技術。古いばかりじゃないんだ。

千年、働いてきました―老舗企業大国ニッポン (角川oneテーマ21)

 

(その1)からの続きです。

 

この本の面白さはいくつもあるが、製造業において、老舗企業の最先端技術、という観点が面白かった。同和鉱業(2006年からDOWAホールディングス)の「都市鉱山」とはすなわち廃棄された携帯の山。この1トンあたりの貴金属の含有量は、鉱石に比べて比べ物にならないくらい高いらしい。それが不純物をたくさん含む銅山で培われた精錬技術がものを言って他の追随を許さない、などという話は全く「日本のものづくり」らしい話しだなと思う。

 

羊の毛を抜けやすくして毛を刈る手間をなくした新技術の発明はヒゲタ醤油。アトピーに有効な健康補助食品を開発した酒造会社。西洋近代科学の問題点をつく穏やかな社長の言葉はまるで先鋭的な哲学者だ。ちょっと驚いた。木蝋(ろう)の会社がシックハウスを防ぐコーティングを発明したり、「三代目あたりの養子」が発展させた呉竹の筆ペン事業など、どれもこれも興味深いものが多い。

 

伝統の技を受け継ぎ、その技術で何ができるか、新しい事業を模索する。また既存の技術の改良・開発に務める。そうやって老舗企業が生き残ってきた、というのはなるほどなあと思う。

 

特に勇心酒造の社長の、「近代に入ってから日本人はお米の新しい力を引き出して来なかった」という指摘には強引に目を開かされるような力強さを感じた。お米の力、といえばただ食べるほかに清酒や味噌など様々な醸造技術によって引き出されているわけだけれど、明治以降はそういう新しい技術の開発がない、という指摘は全く思いもかけない指摘で、驚いた。そしてそこに可能性を見る醸造家がいるという現実はすばらしいことだなあと思った。

 

ライスパワーエキスと名づけた製品をアトピーに有効な健康食品「アトピスマイル」に作り上げ、ようやく黒字を出したのだという。この技術を大手の製薬会社が共同事業の名のもとに技術を巻き上げて、「米から出来た入浴剤」として売り出したりしたこともあったという。この製薬会社の名は社長の意向で伏せられてはいるが、こういう仁義のなさは職人的な日本とは対極にあるものだなあと思う。

 

自然には無限の可能性が秘められている。そしてその自然と対話しながら、新しい可能性を引き出していく。そういう方向性が日本的なものづくりなのだなと思う。豊かな気持ちにさせてくれる本だ。

 

(その3)に続きます。