史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

「アメリカのめっちゃスゴい女性たち」読了。

アメリカのめっちゃスゴい女性たち

町山智浩『アメリカのめっちゃスゴい女性たち』(マガジンハウス、2014)読了。

 

かなり長い期間かけて読んだので前の方は忘れているのだけど、日本では知られていないがアメリカではよく知られている55人の女性を取り上げて一人当たり3ページで論じているのだけど、それぞれの人生がスゴいスゴい。

 

障害を持つ人も多いしレズビアンも多い、離婚経験者も多いし夫の浮気を経験している人も多い。薬物中毒者の家庭で育った人、刑務所に入った経験を持つ人。そのすべてが前向きに人生を切り開いて生きていて、全米に名前を知られる存在になっているというのがそういう意味でとてもアメリカらしい。

 

今日読んだラストの3人は、メアリー・パーラ、アントワネット・タフ、リジー・ベラスケスの3人。

 

パーラは白人女性で現在GM(ジェネラル・モーターズ)のCEOを務めているが、倒産した世界最大の自動車会社・GMを立て直した人。彼女はGMの組立工を親に持ち、GMが作った工業大学を出て30年以上GMで働き、技術者から叩き上げで経営トップに立った、近頃では珍しい人物なのだそうだ。パーカーはCEOになるとトヨタやベンツに対抗する新型車種を次々と開発し、奇蹟の復活を実現したわけだ。アメリカにもそういう「叩き上げ」ということがあるのだなと、そこには「終身雇用の良さ」「企業ファミリー出身」と言うわりと非アメリカ的な要素があるところが面白いと思った。そして作れば売れる殿様商売を脱し、ライバルに対抗出来る車種を作り出したところも日本企業の商売に似ている。これはかなり興味深い人物であり展開であると思う。

 

二人め、アントワネット・タフは黒人女性で小学校の帳簿係。ところがこの人は2014年のオバマ大統領の一般教書演説に招待されている。彼女は学校に侵入して乱射しようとした犯人を説得し、800人の児童の命を救った人物なのだ。20歳で双極性障害に苦しんでいた犯人は、精神病院に入るよりは死んだ方がましだと思い詰め、ソ連製の軍用ライフルAK47を手に学校に侵入したのだった。そんな彼に銃口を向けられたまま彼女は「ベイビー、どうしてこんなことするの?」と尋ね、自分も自殺しようとしたことがある、と言った。彼女の人生は逆境そのもの。継母や連れ子からいじめられ、実母の介護のため高校を中退し、結婚しても生まれた長男は重い障害を持っていて、夫に浮気を告白されたのがとどめを刺した。でも重い障害を持つ息子がいるから死ぬわけにはいかない、あなたも病院で治療してもらえば何とかなる、と語るタフに、犯人がでももう自分は警官を撃ってしまった、と答えると、警官が撃たないように私がついて行くわ、と答え、最虐殺は食い止められたのだと言う。彼女のFacebookを見ると彼女は”Prepred for a Purpose”という著書を書いている。

 

そして55人めのリジー・ベラスケス。名前からするとヒスパニックだろう。彼女は生まれつきからだに脂肪や筋肉をつけられない病気で、一日5000キロカロリー食べないと死んでしまうのだそうだ。それでも体重は30キロしかない。高校時代に彼女は彼女を勝手に撮った8秒間の映像がYouTubeに「世界一醜い女」と題してアップされたのだと言う。これはネットいじめ、英語ではサイバー・ブリーというのだそうだが、彼女は泣き暮らしたが、「私の人生は私が決める」と思い、四つの目標を立てたのだと言う。「モチベーショナル・スピーカーになって人々に希望と勇気を与えること。本を出版すること。大学を卒業すること。仕事で自立して家庭を持つこと。」

 

モチベーショナル・スピーカーという言葉は初めて聞いたが、少し調べると成功を重んじるアメリカでは知られた職業なのだと言う。モチベーショナル・スピーカーのためのエージェントもあり、彼女は決意して直ぐ、高校時代から7年間で200を越える講演をこなしたのだと言う。2010年に著書を出し、翌年には大学を卒業し、あとは家庭を持つだけというところまで来ている25歳だ。

 

モチベーショナル・スピーカーという言葉で検索してみると、いわゆる成功本の著者・講演者というのは結局このジャンルに入るということなのだなと思う。「金持ち父さん」のロバート・キヨサキに関してもそう書いている人がいた。最もキヨサキは2012年に倒産しているとのことだが。

 

ベラスケスは講演で「私はいくら食べても太らないの。うらやましいでしょ?」と言って笑いを取るそうだけど、そうやってタフに振る舞うことがアメリカでは求められるんだなと思う。そうやってタフに振る舞っているうちに本当にタフになる人もいるのかもしれないが、キツいことはキツいだろうなと思ったりはする。

 

まあこんな調子でスゴい女性が紹介されていて、アメリカの縮図のような感じだ。男性にも女性にも薦めたい一冊だ。