史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』は、2013年に読んだ本で一番おもしろい本だった。

謎の独立国家ソマリランド

 

高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』読了。面白かった。面白いという意味では、今シーズンナンバーワンかも。『多崎つくる』もよかったけど、これは面白いというのとは違うから、面白さという点では『ソマリランド』はここ数年読んだ本の中でも相当ハイレベルに面白かったと言っていい。

 

日本ではほとんど知られていないソマリ人という民族について、「国際社会に認められていないのに高度な民主主義を実現している」ソマリランドという国を皮切りに、ケニアの難民キャンプや海賊の横行する(しかし実は中身は氏族的ではあるが民主主義の)プントランドや、イスラム過激派アル=シャバーブとの戦闘などで戦闘に次ぐ戦闘の毎日ながら都人の雅さを忘れていない旧ソマリア首都モガディショと南部ソマリア

 

ディアスポラの人々のほか、さまざまな人に体当たりで話を聞き、文献を調べ、刑務所で海賊の話を聞いたり、現地人と一緒になって麻薬性の作用のあるカートを食べながら議論を繰り広げるという、実際他の人にはまねのできない突貫で、この大著を書きあげた気合と強運は、そう、やはりある種の強運と持って生まれた何かがなければ、この本は書けなかっただろうなと思う。凄いの一言に尽きる。

 

探検記というものは日本人の書いたものもスウェン・ヘディンのような外国人の書いたものも読んだことはあるが、ここまで現地人と同化しつつ日本人の視点から書いたものはなかなか読んだことがなく、エスノセントリズム(自文化中心主義、つまり自分の視点を一度否定してみるという姿勢が持てない)からどうしても抜け出せない西欧人の書いたものよりも、実際スリリングで面白いと感じる部分があった。まあ西欧人の書いたものもその偏見の現れようが笑える、ということはけっこうあるのだが、それはあまり若い人には勧められる視点ではない。

 

狭い視点で書かれている、おたくにしろ近代合理主義にしろ、本をけっこう読んでいたせいもあるし、逆に『気流の鳴る音』のような相対化の試みの強い本を読んだこともあるのだろう、こういうものの面白さというのは本当に未知の文明を一から知ったというような、とてつもない面白さがある。

 

ソマリランド民主化の成功の謎みたいなものが随所で解き明かされて行くありさまはまたスリリングだし、そこにある政治家、またある歴史過程があったからこそ今に至っているというのも、ある意味歴史の面白さみたいなもの、政治の面白さみたいなものを再認識させてもらえるものがあった。

 

自信を持って面白かったと言える一冊だったと思う。