史読む月日―ふみよむつきひ―

歴史のこと、歴史に関わる現代のことなど。

小林よしのりさんの『大東亜論』は、戦前の「国士」たちを生き生きと画面に蘇らせていた

ゴーマニズム宣言SPECIAL 大東亜論 巨傑誕生篇

今日は簡単に、小林よしのりゴーマニズム宣言SPECIAL 大東亜論 巨傑誕生篇』に目を通した感想を書いておきたい。

 

先日来、たまたま小林よしのりさんについて書いたら、ちょうどその書いている期間に小林さんの新作『大東亜論』の発売があったので、これも何かの縁だと思い、買うことにした。

 

『大東亜論』はSAPIOの連載でけっこう読んでいたのだけど、すべて読んでいたわけではない。特に、ラストの来島恒喜の大隈重信襲撃の場面は初めて読んだ。

 

改めて思ったのだが、何というか小林さんのマンガは、特に歴史関係のことは知ってはいるけどあまり印象的でなかったようなことを、いちいちきちんと絵にして印象付けるのが上手いなと思う。瀕死の重傷を負い片足を失った大隈重信が、暗殺者でありその場で自決した来島の命日に香料を届けていたというのは有名な話なのだが、小林さんの絵でそのように描かれるとまたうーんと唸ってしまう。

 

読むべきポイントをピックアップし、そこにスポットライトを当てるやり方が、小林さん独特の技術があって、たぶんそれはギャグ漫画で会得した方法なのだと思うが、個性的だなといつも思う。おそらくは史料を読んでいて印象に残った部分、感動した話などをピックアップし、さてそれをどう表現すればこれを読者に最大限印象付けられるのかと考えて描いているのだろう。

 

小林さんはその場面をさりげないコマにひとことできっかけを作る。え、と思っていると核心までどんどん引っ張られていく。この提示の仕方は『東大一直線』にもみられたし、『ゴーマニズム宣言』でも今まで多用されていたのだけど、歴史ものでこれを読むとどうも何かへえっと思ってしまうところがあり、使い方が上手いなと思ってしまうのだ。

 

小林さんは凄く感覚的なのだけど、その感覚を表現するのに論理を駆使している。そのあたりのことで類書にない説得力がもたらされるのだと思う。

 

小林さんの狙いはネット右翼全盛の時代に戦前の本当の「国士」はこうだったんだ、と示す目的があるのだろうと思う。私も以前からそのあたりのことには興味があっていろいろ読んでいたのでその狙いはよくわかる。ただ、そういうものを書く人はどうも情に流されたり記述がほら話になってしまう傾向があるのが残念(いわゆる右翼というのはどうしてもそういう傾向の人が昔から多いのだと思う)なのだけど、小林さんはそしてそのあたりを情に流されないでプロとしてきちんと表現し、「国士」たちを生き生きと画面に蘇らせ、そして大きな売り上げを得て行く手際は、さすがだとしか言いようがない。

 

目の付けどころは凄くいいのに表現が残念、ということはよくある、というかそういうことの方がよく見かける(自分も含め)ことなので、そのあたりのことをしっかり見習っていきたいと思った。